My Storage

内観の記録。その他。

生涯忘れられない命日

今から14年前、友人が亡くなった。

 

交通事故だった。

 

共通の趣味で知り合ったその男友達とは、毎日連絡を取り合うほど仲が良かった。

 

 

彼は結婚していたので、私の名前を男性の仮名で携帯に登録し、女の子の友達がいることは、奥さんには隠していた。

 

別にやましい事は何もないのに、奥さんが怖くて、女友達がいるとバレるだけで殺されると言っていた。

 

俗に言う鬼嫁だ(笑)

 

 

元々知り合ったきっかけは音楽の趣味が一緒だったからで、他にも共通の友人が何人もいて、いわゆるグループでよく遊んでいた。

 

ところがある日、その友人から個人的に誘われるようになった。

 

 

彼はトラック運転手をやっていて、東京から大阪までの長距離を定期的に移動していた。

 

その通り道に住んでいた私は、「良かったらトラック乗らない?ドライブ行こうよ♪」と誘われるようになった。

 

 

警戒心の強い私は、男性と車内で2人きりになることを恐れて、最初は断っていたが、そのうち一緒にドライブに行くようになった。

 

それは純粋に、その男友達を信用していたからだ。

 

 

仕事中の彼がトラックで迎えに来てくれて、私をピックアップし、そのまま東名高速で大阪まで行く。

 

車が好きな私は、見晴らしの良いトラックの助手席に乗るのが、何気に大好きだった。

 

 

そうして何度か一緒にドライブに行くうち、友人が私を口説いてくるようになった。

 

当時、私は離婚して間もない頃で、家に一人でいるのがとても辛く、何かで寂しさを紛らわせたかったのかもしれない。

 

 

安易に車に乗り、頻繁に2人きりで遊んでいるうち、必要以上に距離が近くなってしまった。

 

どうせ本気ではないだろうと思っていたので、真剣に取り合わなかったのだけど、そのうち身の危険を感じるようになった。

 

 

何度か性的なことをされそうになり、さすがに怖くなった私はキレた。

 

一体何が目的なのか。

 

私たちは友達ではないのか。

 

そもそも、奥さんも子供もいる人が、私を口説くとはどういう事なのか。

 

 

普段めったに感情的になることがない私が、なぜかその時は激しく感情のスイッチが入り、実に5時間も延々と電話で彼に説教をした。

 

 

昔から長いこと、「男女間で友情は成立するのか」という問いがあるように、男と女が一緒にいたら、友情以外の何かが起きることくらいは知っている。

 

過去にも何度か経験したし、それ自体は何とも思わない。

 

 

でも、やっぱり素敵な奥様がいて、かわいい子供が3人もいるお父さんが、仕事中に女友達をトラックに乗せて、不倫のような行為をすることは、道徳的にどうなのか、という所を問い詰めずにはいられなかった。

 

もう勘弁してくれ・・・という友人に、「まだ話は終わっていない」と、しつこく人としてのダメ出しを続けた挙句、私は最後にこう言い放った。

 

 

「もうあなたとは友達じゃない」

 

 

そうして絶縁宣言のようなことをして、電話を切ったあと、しばらくして私は後悔に襲われた。

 

ちょっと言い過ぎたかな。

 

でも向こうも悪いんだ。

 

しばらくして気持ちが落ち着いたら謝ろう。

 

 

そう思っていた。

 

しかしその日は二度と来なかった。

 

次の日の午後、携帯が鳴った。

 

共通の友人からだった。

 

 

「あいつ死んだよ。」

 

えっ・・・。

 

私は絶句した。

 

 

交通事故で、ほぼ即死だった。

 

昨日まで生きていたのに。

 

なんで?

 

とても信じられなかった。

 

彼と最後に会話をしたのは私。

 

私のせいだ。

 

 

私が彼を追い詰めるようなことを言ったから、いつもと違う精神状態で朝を迎えてしまったのかもしれない。

 

仕事に向かう途中の国道16号で、彼は帰らぬ人になった。

 

 

こういう時に後悔という言葉を使っていいのかわからない。

 

でも私は謝る機会を永遠に失った。

 

 

私が彼に最後にかけた言葉は、

 

「もうあなたとは友達じゃない」

 

そして、奥さんと子供を裏切るなんて、人として最低だとも言った。

 

次の日に死ぬとわかっていたら、絶対に言わなかった。

 

 

彼の葬儀に参列したかったけど、男性だけが呼ばれ、女性は来ないように言われた。

 

奥さん以外の女性とは一切交流がないと嘘をついていたから、急に参列したら「誰?」となってしまうからだ。

 

 

別の男友達から、憔悴しきった奥さんと子供たちを見て、何の声も掛けれなかったと言われた。

 

人には寿命がある。

 

事故で亡くなったことも、単なる寿命だったのかもしれない。

 

 

でも、私は自分を責めた。

 

一緒に過ごした時間は楽しかったし、くだらない事を話して笑える貴重な友達だった。

 

 

何でこんな事になったのか。

 

私に残ったのは、酷い事を言ったのに謝れなかったという後悔だけ。

 

それ以来、私は今まで以上に言葉に気を付けるようになった。

 

 

今、自分が話している言葉は、もしかしたら相手にとって、最後の言葉になってしまうかもしれない。

 

そう思って話をするようになった。

 

 

そしてその日から、感情的な言葉は一切言わなくなった。

 

この出来事は生涯忘れるはずもなく、命日の度に思い出している。